北坂養鶏場

はたらく人はたらく人

暮らしながら撮りたい

直売所 記録担当:横山佳奈恵さん 2022年11月

第11回目となる「はたらく人」。北坂養鶏場ではたらく、さまざまな人の話に耳を傾け、はたらきぶりや暮らしぶりを探ってきました。今回は直売所ではたらきながら、写真家としても活動する横山さんにお話を伺いました。

どうして、淡路島に戻ったの?

-横山さんは直売所で主に勤務しながら、写真家としても活動されていると伺いました。いつから北坂養鶏場ではたらくようになったのでしょうか? 2017年からなので5年になります。その中で直売所歴が一番長く、GPセンターは2年ほど。今は直売所で、販売や発送、Instagramの更新などを担当しています。
-横山さんは北坂養鶏場の近隣のご出身だとか。それまではどちらにいらしたんですか? 19歳で大学に進学して神戸に。卒業後は、写真の勉強をするために大阪の専門学校へ。アルバイトをしながら写真家として活動を続け、29歳で淡路島に戻ってきました。
-この「はたらく人」の連載でも、第一回目から写真を撮ってもらって、一緒に取材をしてきましたね。写真家としての活動も、北坂養鶏場ではたらきながら続けられているんですよね。 「暮らしのなかで、写真を撮っていきたい」という気持ちで島に戻ってきたので、普段は北坂養鶏場ではたらきつつ、写真の活動を続けています。
-「暮らしのなかで、写真を撮っていきたい」というのは、帰ってくる前から考えられていたことなんですか? とあるきっかけから、考えるようになったことです。誰かの作品を見たときに、その瞬間は理解しているつもりでも、真髄の中入ってくるものがない……とか。そんなときに友人が紹介してくれたのが豊島美術館の作品。テーマとしても写真と親しいものを感じて、観光ではなく、豊島に滞在しながら4ヶ月間、作品のそばで暮らしてみました。
-同じ瀬戸内海に浮かぶ島ですね。偶然というかなんというか。 そうなんですよ。4ヶ月間、信号もなく病院もない島に暮らしたりはたらいたりしながら、しみじみ身にしみるように作品を味わいました。こんな暮らしができたら、自分が写真で見出したいものも、暮らしながらつくっていけるかもしれないと考えたんです。そのまま豊島にいてもよかったのですが、よく考えたら実家が淡路島だったなって笑。そうやって戻ってくる心境に至りました。

一番印象に残っているのが初日

-帰ってきてすぐ北坂養鶏場ではたらきはじめたんですか? 北坂養鶏場から車で10分ほど山に登った場所に、アーティストたちが開いた廃校跡地のノマド村という場所があって。帰ってきてすぐのころは、そこで週末だけオープンするカフェではたらかせてもらっていました。当時の店主に「平日どうしたらいいですかね~」って相談したら「家近いし、北坂養鶏場がええんちゃう?」ってぽ~んとすすめられて、そこからトントン拍子ではたらくことになりました笑。
直売所に限らず、さまざまな仕事に好奇心旺盛に取り組む横山さん。
これは逃げ出した鶏を捕まえているところ。
-北坂養鶏場のことはご存知だったんですか? それがまったく知らなくて。話を聞いた帰りに直売所の前を通って「こんなところあったんや~」って。たまごの自販機があることは昔から認識してたんですが、それさえも知らず。20代は写真のことばかり考えていて、食べ物にまったく興味がなかったので、地元のことなのにすんごく新鮮でした。
-北坂養鶏場ではたらきはじめたころのことって覚えてますか? 初日が一番印象に残ってます。オリエンテーションでお客さま向けにやってる見学会を体験させてもらったんです。何万羽と鶏がいる鶏舎、餌を配合している人、鶏舎を修理する人。あとは、たまごについてるうんち、羽、生々しいものをこの目で見て。「……たまごって、鶏が産んだものなんだ!」ってダイレクトにどーんっ!と!笑。

-北坂養鶏場に行くと、そのお話を社長やみなさんがお話してくださいますよね。 それまで私にとってたまごは、スーパーで手に取るだけの「食品」になってしまってたんですよ。この事実を忘れていた自分に驚きで。それはずっと、今も私に突き刺さったまま、忘れられない衝撃です。

どんな写真を撮ってるの?

-「暮らしながら、写真を撮る」は実践できていますか? さきほどお話した初日のインパクト、それを日々大切にしておこう。って、自分への戒めのように写真を撮っています。

横山さんの「Unbreakable Egg」の作品のひとつ。これも北坂養鶏場のたまご

-はたらきはじめてから今までの5年で、うまれた作品がいくつかあるんですよね。 ひとつ目の作品はGPセンターではたらいていたときに感じたことを作品にした「Unbreakable Egg」です。検品作業で同じポジションに一ヶ月ついた時、いわゆる「規格外」のたまごをはじく仕事をしていました。形がいびつだったり、こぶがあったり、不思議な模様や色をしていて。まったく知らなかった、未知のたまごの姿がすんごく愛しくって。

-私も拝見しましたが、見たことのない不思議なたまごですよね。 自然で、より生き物から産まれたものって感じで。でも、私がこの検品作業をすることによって人の目にふれなくなるんです。自分はそれに出会って、たまごが生き物だったって喜びになったのに、止めていいのかなって。

-横山さんは、そのたまごの姿がかわいくてたまらなかったんですね。 そうですね。これは世の中の人にも見てもらわないと!と、お世話になっていたノマド村のギャラリーで展示をして、そのあとコンペにも出して。プロジェクトみたいな形をとって、最後は京都で展示もさせてもらいました。

北坂養鶏場ではたらいて、伝えたいことは?

-もう一つの作品は、今も直売所で見ることができますね。 これは「Unbreakable Egg」の京都での展示の際に、いろんな再開が重なってうまれた作品です。

-いろんな再開、ですか? 北坂養鶏場が鳥インフルエンザですべてストップした後のこと。北坂養鶏場のみんなが力を結集して、鶏舎に鶏が戻ってきて。これから鶏がたまごを産むぞ~!っていう瞬間と、コロナ禍で延期になっていた私の展示の再開が運命的に重なったんです。

-そんな偶然、あるんですね。 この再開の瞬間を記録しよう!って。淡路島から京都へリモートで。復活したての鶏舎から「朝採れたまご」の写真を30日間、送り続けました。

直売所で展示されている作品「as it as」を紹介する横山さん

-朝採れたまごをリモートで!笑。 一日、一日、ちょっとずつ鶏たちが産む卵が増えていくんです。で、この中にも出べそがいたり、割れた卵があったり。そのままの様子をうつして送り続けました。農場や直売所のみなさんに協力してもらいながら、もう必死に。今、これやろうと思ってもできないですね笑。ふたつの作品どちらとも伝えたかったのは初日の衝撃で。「たまごって鶏が産んだものなんだ」ってことなんですよ。

-そこは一貫して変わらず? 展示を見てくれた人たちの年代でも反応は様々で。若い人たちは不思議なたまごや、みたことのない姿を、たまごではない幻想的なものに例えたりします。宇宙とか惑星みたいとか。でも、60代以降のおじいちゃんおばあちゃんは懐かしいなぁって。

京都で開催された展示の様子。不思議な形のたまごの展示の傍らで、朝採れたまごが毎日送られた。

-知っている人と、知らない人で、反応が違うのはおもしろいですね。 見えてなかったがために、びっくりするというのもあるんだなって。そのギャップを、ちょっとずつ慣らすというか、そういう伝え方ができたらいいなと。

-これから撮ってみたいものや、やってみたいことってありますか? 実は直売所のInstagramの更新も任せてもらっていて。少~しずつジャックして、自分の伝えたいことをアップしています笑。同じ養鶏場でもその瞬間、瞬間で、見えるものも伝え方も変わっていきます。これからも、日々いろんなことを試しながら続けていくつもりです。

横山佳奈恵  直売所  記録担当

横山佳奈恵さんのとある一日

7:00
起床
朝ごはん・お弁当づくり
9:00
直売所到着
オープン準備
10:00
直売所オープン
個人のお客様への出荷準備
メールチェック
12:00
直売所のヤギを見ながら昼食
13:00
Instagramの投稿整理
事務仕事
直売所の作業
16:00
退社
夕食買い出し
18:00
夕食
写真にまつわる仕事
24:00
就寝

 横山さんを知るQ&A 

お昼休憩のおすすめスポット:ヤギが見える直売所裏

座右の銘:やってみよ~笑。基本的に断らない。

なくてはならない仕事道具:スマホのカメラ

うまくいかないときの対処法:一旦頭の中で自分を丸坊主にする。

みんなからみた横山さん

・色んなことに興味のあるフレンドリーな体育会系女子。
・めっちゃ頑張ってて、完璧を目指している。たまにヘルペスできてて心配になる笑。
・素直で一直線。いそいでることが多い。