北坂養鶏場

はたらく人はたらく人

私も、教えてもらったこと

農場 育雛担当:高田喜久栄さん 2022年5月

北坂養鶏場には、さまざまな「はたらく人」たちがいます。直売所でたまごを販売する人もいれば、鶏舎で発酵鶏糞「島の土」に携わる人。「はたらく人」の連載では、ここで営みを重ねる人たちの話に耳を傾け、はたらきぶりや暮らしぶりを探っていきます。第五回目は、北坂養鶏場に勤めて17年になる高田さんにお話を伺いました。

ひよこのお母さんのような仕事

-高田さんが入社されたのはいつ頃ですか? 今年で17年目になります。最初の2~3年は、農場で成鶏(せいけい)のお世話をしていました。卵を産む鶏たちのお世話ですね。

-現在は、第一回目にお話を聞いた片岡さんと共に「育雛(いくすう)」を担当されていると聞きました。 そうですね、育雛担当になってから15年です。ひよこがくるのは一年に4回ほどですから、ひよこがいない時は、成鶏の農場へも行き来しつつ、育雛を担当しています。

鶏になるまえの大雛

-あらためて育雛のお仕事について伺えますか? 育雛は大人の鶏になるまでの雛を、健やかに育つようサポートする仕事です。成鶏と呼ばれる大人の鶏になるまでは、ひよこ、中雛(ちゅうびな)、大雛(おおびな)の3つの段階に分かれます。それぞれに鶏舎も変わるので、ひよこで1ヶ月、中雛で1ヶ月、大雛で2ヶ月と鶏舎も引っ越ししなければなりません。特にひよこの間は、温度管理をしっかりしてやらないといけないので、細やかに見守ってやることが必要です。

-1羽、2羽の話ではありませんもんね。 注意力がかなり必要そうです。 ひとつの籠にだいたい50羽のひよこが入っていて、それがおよそ500籠以上あります。餌はちゃんと食べているか、水は漏れていないか、たまに雛が動き回って水タンクをひっくり返して、朝きたら籠の中が湖みたいになってることもあるんです。

-まるで雛たちのお母さんみたいですね。 ほんとうに、母のような気持ちです。人間の子どもがおっぱいから離乳食に食べるものが変わるように、ひよこたちも5日目から餌が変わったりもします。大きくなって首が伸びてくると、顔を出して餌を食べられるようになるので、餌籠のスライドの調整も細やかに見守らないといけません。

誰から教えてもらったの?

-高田さんはどなたから育雛の技術を教わったんですか? 現在の社長のお母さんからです。つい最近まで、バリバリ現役で農場にもこられていました。90代になられた今でも手伝ってもらうこともあるくらいです。

-お母さん直々に! よこが来て何日目にどうするのか。カレンダーに書き込んで記録を残しながら、教えてもらったことを覚えていきました。今でも同じようにカレンダーに記録をつけるようにしています。お母さんがやっていることを隣で見ていたとはいえ、いざ自分でやってみるとなるとわからないこともたくさんありました。

-例えばどんなことでしょうか? ひよこはだいたい33度くらいの温度で保温してあげないといけないので、籠をナイロンで覆っているんです。どのへんでナイロンカットしてたんだろう?とか、細かいことですが、ちょっとしたことで温度が変わるので心配りが必要なんです。

-そんなときはどうされてたんですか? お母さんがいないときは、直接電話して聞いて、わからなければ来てもらったりしていましたね。

-お母さんとはどれくらいお仕事をご一緒されていたんですか? 8年ほどです。「できるだけ手間がかからず簡単にできるように。こうしたほうがいいな~って事があればどんどん改革してね。私のやり方がすべてじゃないから」と、教えていただきました。

教える立場になって

-現在は何人で育雛を担っていらっしゃるんですか? いまは3年目の片岡さん、そして2022年に入社したばかりの鹿屋さんと3人で育雛を担当しています。今度はお母さんから教わったことを、ふたりに伝えていく立場になりました。私がお母さんから教えてもらったことは、すべて伝えたいと思っています。

-今度は伝える立場に変わられたんですね。一緒にやっていく上で、心がけていることはありますか? 私もそうだったけど、聞くだけじゃなかなか覚えるのは大変です。だからなるべく手を動かしてもらうようにしています。

-立場が変わってから、印象的だったことはありますか? 片岡さんの変化かな。片岡さんとは、入社してすぐの頃、会話のキャッチボールってうまくできなかったんです。私はよくしゃべるほうだから、余計にひとりでボール投げてるみたいだったんですよね笑。

-反応が薄かったんですか? 正直、ちゃんと伝わってるのか自信がなかったんです。私は強く言ってしまう方だから、お母さんが横で見ていて「そんなにいうたら凹んでしまうで」って言われたこともありましたね笑。

あるとき、片岡さんが間違って作業を進めてしまったときに「迷うことは『わかりません』って言っていいんだよ、もう一度聞いてくれたら答えるから。同じように些細な事でもなんでも話しかけてみて」って伝えたんです。

ひよこの鶏舎での作業の様子

-片岡さんはどんな反応でしたか? 少しずつ、わからないことを聞いてくれるようになりました。すると話もキャッチボールできるようになっていって、会話も増えていきました。

今思えば、片岡さんはとっても素直だし、思慮深い。伝えたことしっかり受け止めてから、吸収してくれてたんですよね。一年後くらいから、みるみる変化していって、今はほとんどの仕事を安心してまかせています。

どんどん変えていってね

-高田さんは北坂養鶏場ってどんな場所だと思いますか? 自分ができることを自分で考えて動ける場所です。なにかやらないといけないとか、押し付けられることはありません。「これやっといたほうがいいかも」ってことはどんどんやっていいし、気づいた人が気づいたことをやっているように思います。

-自分だけではどうしようもないこともありますよね。そんな時はどうされてるんでしょうか? 例えば力仕事で、どうしても私だけじゃ動かせないものがあったりすると「応援」をお願いすることもあります。

-「応援」ですか? 私たちは他のチームから力を借りる時「応援」って言っています。もちろん私も呼ばれて手伝いに行くこともありますよ。みんなそれぞれに考えて動いていて、やれることは自分でやるし、難しいときは「応援」をお願いします。

大きくなった雛の引っ越しは、みんなで

-何人かにお話を聞いてきてましたが、自分で考えて行動される方が多い印象です。 自分で考えて動いたことに、悪いなんてことなんてひとつもないですから。北坂のお母さんが「どんどん改革してね」って言ってくださったことと同じだと思います。

みんなそれぞれ個性が違うから、できることも違えば苦手なことも違うし、できるペースも違います。自分が思ったことは自分のペースでやってみたらいい。できないことは「応援」を頼んでみんなの力で実現すればいい。それができる場所だな~って思います。

高田喜久栄 農場 育雛担当

高田さんのとある一日

6:30
起床
朝ごはんと身支度をして出社。
8:00前
ひよこたちの餌と水のチェック
10:00
中雛の鶏舎にて餌のスライドを鶏の成長にあわせて調整作業。
12:00
自宅に戻ってお昼休憩
13:00
成鶏の掃除や修理
15:00
ひよこの小屋チェック
17:00
終業

 高田さんを知るQ&A 

なくてはならない仕事道具は?:これ一本でなんでも修理できる、プライヤー。
うまくいかないときの解決方法:その日のうちに解決。家に帰ったら悩みは忘れる!
淡路島の好きな景色:家に帰るまでの道のり。夕陽が落ちる海がきれい。

みんなからみた高田さん

・養鶏場歴が長いので、昔のこと含め、たくさんのことを知っている。
・仕事もなんでもとにかく早い!その上、とっても丁寧。
・直売所のヤギ「くるめ」にご飯のおすそ分けに来てくれる。
・今はショートヘア一択な感じだけど、昔はヘアスタイルでかなり遊んでいたらしい。