なぜか目玉焼きの味付けにそれぞれのこだわりがあったり、はじめてたまごを割った日のこと覚えていたり。たまごがあるって当たり前のようで、少し特別。その“当たり前”が、ちょっといいなと私たちは思っています。「たまごと暮らし」の連載では、北坂養鶏場の常連さんや、お得意先さんにお話を伺い、たまごのある暮らしをのぞかせてもらいます。
今回お話を伺ったのはヤマダストアーの成影さん。ヤマダストアーさん(※1)では、私たちのたまごをお取り扱いいただいています。私たちが知り合ったのは、成影さんが学生時代のこと。
北坂養鶏場が毎週出店している「EAT LOCAL KOBE FARMERS MARKET」で、当時まだ学生だった成影さんは、学生ボランティアとして活動されていました。
「ポートランドへの留学中に、ファーマーズマーケット(※2)文化に魅せられました。ですが、留学して半年くらいでコロナ禍に差し掛かり、緊急帰国を余儀なくされたんです。行き場のない日々の中で、出会ったのが神戸のファーマーズマーケットでした。運営ブースに伺って『何かお手伝いしたいんですけど』と、申し出て。そこから学生ボランティアとして関わり始めました」。
テント設営や水汲みなどの手伝いの合間に、さまざまな生産者さんと自由に話せる環境が、成影さんの好奇心を育てたと言います。
「北坂養鶏場さんともちょっとずつ、毎週行くごとにお話しするようになって。『もみじとさくらってどう違うんですか?』とか『どうやって育ててるんですか?』とか。当時は“売物”としてのたまごしか知らなかったので、すごく新鮮な気持ちでした」。
次第に現場への興味も膨らみ、北海道や淡路島で農業インターンにも参加したのだそうです。農家さんと出会い、直接関わっていく中で「どうしてこんなにいいものが、知られてないのだろう?」と、もどかしさを感じるようになったと言います。
味にも、想いにも胸を打たれるのに、それらが日々の選択肢として届いていない現実。そこで成影さんが目を向けたのが、小売りの分野でした。「誰もが毎日のように立ち寄るスーパーなら、もっと広く伝えていけるかもしれない」。
その転機をくれたのも、また神戸のファーマーズマーケットでした。マーケットのお客さまと卒業後の進路について話していたところ「ヤマダストアーっていう面白いスーパーがあるよ」と、教えてもらったのだそうです。
実際に訪れてみると、売り場づくりや商品のラインナップ、ポップの一言ひとことに「私もここでやってみたい!」と心が動いたと言います。これまで育んできた価値観がぴたりと重なり、ヤマダストアーに入社。
「いま私は人事部にいて、新店舗がオープンしたときにはスタッフとして店舗に立つこともあります。社内で北坂養鶏場のたまごのお取り扱いが始まると耳にしたときは驚きました。あの頃は、北坂さんのたまごを、自分が売る側に立つなんて思ってもみなかったですから」と、成影さん。
忙しい日々の中でも、家の冷蔵庫にはだいたいたまごがストックされているそう。「お取引のある養鶏家さんのたまごが家にあることが多いです。今は一人暮らしなので、朝は自分用にたまごかけご飯や、味玉を作ったり。忙しい日は、味玉をおにぎりしてお昼ごはんに。大きいおにぎりを食べてるのがばれちゃいますね笑」。
“中の人”となった成影さんとの思いがけない再会に、私たちも驚きと喜びを感じています。今回のお話は「たまごと暮らし」にとどまらず、成影さんの生き方にまでお話が広がりました。次回も、たまごをきっかけに出会った方にお話を伺っていきます。どうぞ、お楽しみに。
(※1)ヤマダストアー
兵庫県姫路市を拠点に展開する地域密着型のスーパーマーケット。創業から一貫して「食の安全・安心」と「ほんもの志向」を大切にし、作り手の顔が見える商品選びや店内の丁寧な手書きPOPなど、地域の食卓に豊かな選択肢を届ける。特に、添加物を極力使わない商品や、地元産・国産原料の食品、小規模な作り手による品々を積極的に取り扱う。最近では「つくる人の想いが伝わる売り場」を目指し、生産者との直接的なつながりや発信にも力を入れている。
(※2)ファーマーズマーケット
アメリカ・ポートランドを中心に広がったファーマーズマーケット文化。地元の生産者と消費者が直接つながる「顔の見える食」の場として1990年代以降、注目されている。農産物や手づくりの加工品を、生産者自らが販売するスタイルが特徴で、「食の透明性」や「地域コミュニティの再生」といった価値を重視。ポートランドでは都市住民の間に“ローカルで買う”という意識が根づいており、全米にも波及している。